「研究のスタイル」

National Heart, Lung, and Blood Institute, National Institutes of Health,
向山洋介

新学術領域研究「血管と神経のワイヤリング」 が立ち上がり,高橋淑子先生を中心にして,発生生物学,血管生物学,そして神経科学の専門家が本研究プロジェクトに挑むことをとても嬉しく思う.

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というのも,California Institute of Technology (Caltech)のDavid Anderson研究室のポスドクとして,末梢神経主導による動脈系血管分岐パターン決定の分子メカニズムの研究を始めて以来,血管と神経という二つのネットワークが創りだす秩序ある分岐パターンに魅せられているからだ.この研究テーマを通して,発生生物学の命題でもあるパターニングと細胞運命決定のメカニズム,さらには幹細胞ニッチにいたるまで興味は尽きない.本総括班に研究協力者として参画するにあたり,こうした研究の面白さを書き出したら紙面は尽きないのだが,ここは本研究領域に挑む多くの若手研究者(おもに大学院生のみなさん)へのメッセージとして,私の研究経緯を紹介しながら「研究のスタイル」について考えてみたい.

「研究のスタイル」は,Caltechの神経生物学教授である マーク小西先生からいただいた同タイトルのエッセイがきっかけとなった.優秀な学生やポスドクを見ると,実にうまいこと自分の研究のスタイルを確立して,画期的な研究をするというのだ.研究のスタイルは,日進月歩する技術を取り入れることではなく,重要な問題を見抜く目や,研究を進める戦略ということである.

私は,東京大学分子細胞生物学研究所の宮島篤研究室にて,Aorta-Gonad-Mesonephros (AGM) 領域の初代培養系を確立し,造血発生におけるサイトカインや転写因子の役割を明らかにして博士号を取得した.血球がポコポコ湧き出るという興味深い生命現象を捉えるシステム(初代培養)を確立し,そのシステムを使って分子メカニズムを探る,という研究のスタイルが決まった(はまった!)時である.この研究のスタイルで神経発生の研究をしたいと思い,神経軸索ガイダンスのパイオニアである Marc Tessier-Lavigne研究室,もしくは神経冠幹細胞の維持・分化の先駆的な研究をしていたDavid Anderson研究室を留学先とした.当時,先輩や知り合いが留学先でノックアウトマウスを解析して華々しい成果を発表していたが,自分はあくまで軸索ガイダンスか神経幹細胞の分子メカニズムを探るシステムを確立することを考えていた.面接先のAnderson研では,軸索ガイダンス分子ephrinB2のノックアウトマウスの解析から,ephrinB2が血管網形成に必須であることがちょうど報告されたばかりであり,この分子をとっかかりにして神経―血管の相互作用という新しい研究ができるぞ!とDavid と興奮して議論したのを覚えている.神経―血管の相互作用を捉えるシステムができれば,神経および血管発生に異常のあるマウスを使って分子メカニズムも研究できる,,などとシミュレーションしていた.しかし,いざAnderson研で研究を始めて見れば,神経―血管の相互作用を観察するのにどの組織を解析したらよいかわからない,どんな培養系を組み立てたらよいかわからない,まさにないないづくしであった. それでも自分の研究のスタイルに,頑固にこだわり続ける.試行錯誤を繰り返しながら,マウス胎仔皮膚血管網をホールマウントで解析するシステムを確立し,末梢神経束が動脈血管分岐パターンを制御し併走にいたることを明らかにすることができた.

mu02 さらに後根神経節と血管内皮細胞の共培養実験から,末梢神経束由来のVEGF-Aが動脈内皮細胞の「細胞運命決定」に重要であることを見出した.NIHに自分の研究室を持って,末梢神経束由来のCXCL12 (SDF-1)が動脈血管の「パターン形成」に必須であることも明らかにした.現在では,動脈ばかりでなく静脈やリンパ管血管分岐パターン,皮膚創傷治癒モデルにおける血管再生パターン等,研究テーマの射程も広がりつつある.
こうしてみると研究のスタイルは,個性と同じでなかなか変わらないのかもしれない. 自分の研究スタイルで面白いテーマに挑むことが,研究者としての醍醐味だと私は思う.その研究のスタイルは,大学院で決まると考える.自分の勝ちパターンとなる研究スタイルを大学院生の時に確立できれば,自信を持って留学先の研究テーマに挑めるだろう.私の研究室では,各々のポスドクの研究スタイルを尊重して,様々な組織における血管―神経のワイヤリングの研究をすすめている.時間はかかるけれども,各々のプロジェクトが実を結んでいくよう,私はチアリーダーのごとく旗を振ってひたすら応援している.

 

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