新学術領域 第四回班会議レポート

 新学術領域研究「血管―神経ワイヤリングにおける相互依存性の成立機構」第4回班会議が、2013年8月26日から28日にかけて『ホテル阪急エキスポパーク』にて行われました。血管・神経という異なる2分野の研究を融合させ、「血管−神経ワイヤリング」という新たなコンセプトを確立した本領域研究は、昨年度の中間評価で「A+」という最高の評価を受けました。この領域研究もいよいよ発足4年目に突入し、新たなインプットにより融合研究を加速させるべく、8名の新規公募班員を加えて後半のスタートを切りました。

この後半戦スタートの号砲として位置付けられたのが今回の班会議です。もはや領域のトレードマークともなっている、「NO社交辞令」「NO上下関係」は新規公募班員を迎えた今回も健在であり、純粋なサイエンスの追及に没頭した3日間となりました。前期からの各メンバーの研究の進捗はいずれも予想を上回るものであり、また3年間で地道に積み上げてきたデータが一つのストーリーとしてほぼ纏まりつつあるのも見て取れ、残り2年弱、新メンバーも加えた領域全体として飛躍を期待させるには十分なものでした(文責 久保田)。


expo
ホテル阪急エキスポパーク。3日間にわたって、密な議論が交わされた。


<同志社大学大学院 脳科学研究科 神経分化再生部門 水谷健一>

 研究室を立ち上げてから約1年が過ぎ、今年度のラボの運営資金に頭を悩ませていた今春、科研費採択の通知が届き安堵したと同時に、今回の第四回班会議の知らせが届きました。既にチームとしての活動を展開している研究班に、2年遅れで加わることへ不安を感じたというのが、正直な気持ちです。。。が、それ以上に、私とラボメンバーが試行錯誤しながら進めている神経と血管の間を取り持つ分子機序の解明に、普段接することができない多彩な分野の研究者が、如何なる観点でサイエンスに取り組んでいるかについて学ぶ機会が持てることに興味と期待が高まりました。
 実際、初めての班会議に参加させていただき、3つの「刺激」を受けました。第一に、『もしかしたら大発見かも!』と自分の中では期待していた現象が、種や臓器は異なるものの、非常に類似した現象を観察されている方がおられ、『自分が考えるアイデアは、世界のどこかで見知らぬ誰かが同じ様な発見をしていて、独創的な研究を見出すことは簡単ではないなー』というサイエンスの厳しさを改めて感じた「辛い刺激」です。二番目の刺激は「良い刺激」で、皆さんが夫々のフィールドでサイエンスの高みを目指しておられる姿勢が直に伝わり、『自分も負けていられない。新しい斬新な発見を自分がしてみたい』という強い競争心が芽生えたことです。夕食、ナイトセッションでは三つ目の刺激を受け、論文、ネット上でしか知らなかった研究者の方々と面識を持つことができ、言葉を直接交わすことでしか得られない貴重な情報を得ることができ、沢山の収穫がありました。
 2年という限られた研究期間ですが、今回受けた刺激を活かして、自分なりの考え方、自分なりのやり方で神経と血管のワイヤリングに関するサイエンスを追究、挑戦し、こうした貴重な機会を与えていただいた、この研究班に貢献したいと強く思いました。



<理化学研究所発生 再生科学総合研究センター 藤原裕展>

今年度より公募班員として、新学術領域研究「血管―神経ワイヤリング」に参加できる幸運に恵まれました。今回の公募研究では、マウス毛包幹細胞と感覚神経との相互作用の理解を通じて、器官がどのようにして精密な神経配線を獲得するのか、逆に神経配線がどのようにして器官の形成と機能を制御しているのかを理解したいと考えています。血管―神経ワイヤリングの発展型だと考えております。
と、分かったようなことを書きましたが、実は私、神経科学の素人です(まずいことに、血管のことはもっと知らない。。。)。加えて、班員向けに送られてきた高橋領域代表からの気合十分のメール+班会議の冗談のような過密スケジュールを見て、「うーん、えらいところに来てしまったなぁ」と考えておりました。不安を抱えたまま、閑散とした大阪万博公園駅を降り、太陽の塔を背に、会場のホテル阪急エキスポパークへと向かいました。
しかし、班会議が始まると、私の不安は一掃されました。そこには、誰もがありのままを話せる、そしてディスカッションできる空気がありました。「ありのまま」とはかなり曖昧な表現なのですが、それを説明しうる要素を具体的に挙げると、「ヒエラルキーなし」「形式なし」「社交辞令なし」「素人歓迎」「本音の質疑応答」「無理がない」「ユーモアあり」といったところでしょうか。このような班の色は、領域代表のポリシーと強力なリーダーシップのもとに育まれたものであると思いますが、同時に若い人たちがそれを上手く利用しているからこそ機能しているようです。
さて、私の研究にとって、この3日間はたいへん意義深いものでした。私が研究対象としているマウス皮膚は2Dに近い組織構造をしているため、パターン形成の研究に都合がよく、今回の発表でも、皮膚をモデルとしたものが複数ありました。皮膚における血管と神経の発生順序やワイヤリングの仕組みを、皮膚のその他の組織の発生とリンクさせて理解出来たのは大きな収穫です。また、今、私のメモノートを見直してみると、私の研究に関わるアドバイスやアイディアが15も書かれていました。ほとんどが、私にとって全く新しい内容で、無意識のうちに異分野流入が始まっていることに気づきました。
昨今、異分野融合が声高に叫ばれています。本班も血管生物学と神経科学の融合を目指していますが、無理をしている様子はほとんど見受けられず、純粋に面白いサイエンスをボトムアップで楽しんだ結果、両分野の交流が進んでいるとの印象を受けました。巷では、トップダウンで異分野融合を進めようとする向きもあるようですが、必ずしも上手くはいかないようです。また、この新学術領域は2年後に終了するのですが、血管―神経ワイヤリングの研究は世紀を超えて続いていくはずです。何十年か後に振り返った時に、この新学術領域が血管―神経ワイヤリング研究の重要なイベントとして認識されることは間違いないと思います。私の研究も、「血管―神経ワイヤリングの発展型」として、本領域の発展、さらには、少し広い意味でのワイヤリング現象の機構や意義の理解に貢献できればと思っています。
最後に、このような素晴らしい集いを計画・準備してくださった、高橋領域代表、計画班の方々、そして今回の班会議の準備を担当された関口研究室の皆様にお礼申し上げます。素晴らしかったです。

 


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